労務問題雑記ブログ

日々発生する労使紛争に対する法律上の対応に関する記事をお届け。また、働き方改革関連法に関する情報発信も随時行います。ときどき書評も。

通勤手当の支払いについて

Q.私の勤めている会社では通勤手当が支給されません。私の友人が務めている別の会社では通勤手当が支給されているのに、おかしくないでしょうか。会社が労働者に対して通勤手当を支払わないことは労基法に違反しないのですか。

 

A.会社が労働者に対して通勤手当を支給しないことが必ずしも労基法違反となるわけではありません。別段の意思表示が限り、会社が労働者に対して通勤手当を支給する義務はないでしょう。

 

1.通勤手当の法律上の位置づけ

 会社と労働者との間で雇用契約が結ばれると、労働者は会社へ労務を提供し、会社はその見返りとして賃金を支払わなければなりません。労働者が労務を提供する場所は、別段の意思表示がない限り、会社の現在の住所となります(民法485条)。

 会社へ行って実際に労務を提供するためには、自分の足や自転車、車、その他公共交通機関を使う必要がります。民法上、自宅から会社へ行くまでの費用(通勤費用)については、原則として労務提供債務を負っている労働者が負担することになります(民法485条)。したがって、会社は必ず労働者に対して通勤手当を支払わなければならないというわけではありません。

 

2.会社が通勤手当の支払いを義務付けられる場合

 もっとも、会社が通勤手当を労働者に対して必ず支払う必要のあるケースもあります。

確かに、通勤費用は労働者本人が負担するのが原則です。しかし、通勤費用については会社が負担する旨の「別段の意思表示」があった場合、会社は労働者に対して通勤にかかった費用として通勤手当を支払わなければなりません。

 「別段の意思表示」の方法としては、就業規則雇用契約書、あるいは労働協約において会社が労働者に対して通勤手当を支払う旨明記されていることなどが考えられます。

 そして、就業規則等において通勤手当の支給条件が明確にされることによって、会社は労働者に対して通勤手当を支払う義務を負う一方で労働者も会社に対して通勤手当を請求する権利を持つことになります。

その結果、その通勤手当は労働の対償として認められ、労働基準法上の賃金として保護されます。労働基準法第24条第1項は、使用者が労働者に対して賃金の全額を支払うよう義務付けています(賃金全額払い原則)ので、仮に会社が就業規則等に明記された通勤手当を労働者に支払わなかった場合は労基法24条違反が成立するのです。