労務問題雑記ブログ

日々発生する労使紛争に対する法律上の対応に関する記事をお届け。また、働き方改革関連法に関する情報発信も随時行います。ときどき書評も。

「解雇」という事実の認定の難しさ

 「会社から解雇されました」と言って相談に来る方が結構います。会社は労働者を解雇する場合、労基法上の手続きに従い30日以上の予告期間を置くか又は予告期間を短縮する場合は短縮する日数に応じた解雇予告手当の支払いが義務付けられます(労基法第20条)。また、労基法第19条や労働契約法第16条に基づく解雇制限があるため、会社は自由に労働者を解雇することができるわけではありません。

 しかしながら、「会社から『解雇』されました」という相談を文字通り鵜呑みにするわけにもいかないのが実情なのです。というのも、相談者からよくよく事情を聞いてみると、会社は「あなたを解雇する」などという発言をしたわけではなく、「もう会社に来なくて良い」「会社を辞めろ」と言われたに過ぎないケースも多々あるからです。

 「解雇」という事実の有無を証明する最も強力な証拠となるのが解雇通知書等の書面です。会社から解雇通知書を交付され、何月何日付で解雇する旨の記載があれば、ほぼ間違いなくその労働者は会社から解雇されたと判断できます。しかしながら、解雇通知書等の書面を交付されておらず、社長から「もう会社に来なくていい」「会社を辞めろ」と言われているにすぎない場合、このような社長の発言は

  1. 解雇の意思表示
  2. 休業命令
  3. 退職勧奨

のいずれであるかが不明確なのです。社長が①解雇の意思表示と素直に認めれば、当該発言は解雇の意思表示と考えて差し支えないです。しかしながら、労基法や労働契約法をある程度知っている社長であれば、労働者を解雇した場合に法律上の規制がかかってくることを知っているため、解雇したという事実を認めようとしないケースが多いです。大抵のケースでは、「『解雇』などと一言も言ってない。単に退職を促しただけだ」と言い逃れされるのが落ちです。

 「解雇」、「休業命令」、「退職勧奨」のいずれであるかが不明確な場合、労働基準監督署へ相談に行ってもあまり意味はありません。なぜなら、労働基準監督署は客観的な事実を基に労基法違反の存否を判断しますので、解雇通知書も交付されておらず社長自身も解雇の事実を否定している場合は「解雇の事実について特定できず、法違反は確認できなかった」として処理を終えざるを得ないからです。

 では、「もう会社に来なくていい」「会社を辞めろ」と言われた場合、労働者はどのような対応を取ればよいのかというと、とにかく出勤することなのです。

上記③退職勧奨はあくまで会社と労働者との間で合意退職を目指すものにすぎないので、会社から退職を勧奨されたとしても労働者はそれに応じる義務はありません。ですので、退職勧奨に応じず普段通り出勤しても何の問題もないのです。また、仮に会社が出勤を拒否した場合(上記②)、その出勤拒否が使用者の攻めに帰すべき事由によるものである限り、会社は労基法第26条に基づき平均賃金6割以上の休業手当を労働者に支払わなければなりません。会社が労働者に休業手当支払わなければ、賃金不払いとして労働基準監督署へ申告することができます。休業手当の不払いには当然罰則もあります(労基法第120条)。

会社は、労働者の出勤を拒否した場合であっても、労基法上は休業手当を支払い続けなければならないため、不要な出費を強いられることになるのです。そうなってくると、最終的に会社は当該労働者に対して解雇せざるを得ない状況に追い込まれることとなるのです。そして、実際に会社から明確に解雇の意思表示を引き出すことに成功して初めて、解雇予告や解雇制限の話に持っていくことができるようになります。

相談者に対して「今回のケースについて解雇と断言することができな。とりあえず会社に出勤して会社の意思を確認すること」と言うと、大抵の相談者は出勤するのを嫌がります。しかしながら、解雇されているわけでもないのに出勤しないとなると、会社からは欠勤扱いされるかあるいは「退職勧奨に応じて会社を自発的に辞めたのだ」という口実を会社に与えることになります。自身の権利を守りたいのであれば、自ら行動するということが不可欠なのです。