労務問題雑記ブログ

日々発生する労使紛争に対する法律上の対応に関する記事をお届け。また、働き方改革関連法に関する情報発信も随時行います。ときどき書評も。

年間勤務カレンダーの作成と届出の際の注意点

       年間勤務カレンダーの作成と届出の際の注意点

 毎年3月から4月というのは、1年単位の変形労働時間制に関する協定届を作成して労働基準監督署へ届出をすることが何かと多くなる時期です。私も仕事柄、1年単位の変形労働時間制に係る年間カレンダーをチェックすることがしばしばあります。今回は、年間カレンダーで暦日をまたぐ勤務時間を設定する場合の注意事項について述べてみたいと思います。

1年単位の変形労働時間制を導入する場合は、労使協定や勤務カレンダー等により対象期間中の労働日及び労働日ごとの労働時間を特定する必要があります(ただし、対象期間すべての労働日ごとの労働時間を対象期間が始まる前に特定する必要はなく、最初の期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を定めた上で、その後の各期間については労働日数及び総労働時間を規定すれば足ります)。

 1年変形に関する労使協定及び年間カレンダーにおいて、始業時刻17時00分~終業時刻0時30分とする勤務を月曜日から土曜日までの週6日について設定していたとしましょう。この場合、土曜日の勤務が翌日曜日の0時30分に食い込んでしまっている点に注意が必要です。このような労使協定及び年間カレンダーを労働基準監督署へ届出た場合、次のような理由により指導を受けた後ほぼ間違いなく返戻されるでしょう。

 労基法第35条は、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない旨定めています。解釈例規(昭23・4・5 基発第535号)によると、暦日休日制が原則ですので、0時00分~同日24時00分までの時間について労働者が休息期間を取ることができなければ、労基法上の休日を与えたことにならないのです。そうすると、月曜日から土曜日までの6日について17時00分~翌0時30分まで働く勤務カレンダーを作成してしまった場合、会社としては日曜日に休日を与えたつもりであっても、実は労基法上の休日を与えたことにはならないのです。監督署としては1週間に1日の休日を確保できていない勤務カレンダーを受け付けることは労基法35条違反を見逃しているようなものですので、受け付けるわけにはいかないのです。

そのため、土曜日を休日とする週5日の勤務とするか又は始業時刻を30分早めて16時30分~0:00分までに変更するといった対策が必要となってきます。

 

※暦日休日の例外

 ところで、暦日休日が原則ではありますが、8時間3交代制勤務の場合には例外として次のような要件を満たせば、休日は終業後継続24時間を与えれば差し支えありません(昭63・3・14 基発第150号)。

  1. 番方編成による交替制によることが就業規則等により定められており、制度として運用されていること
  2. 各番方の交替が規則的に定められているものであって、勤務割表等によりその都度設定されるものではないこと

年次有給休暇5日間取得義務対象労働者の範囲

 労働基準法の改正により、使用者は年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者を対象として、有給の付与日から1年以内に最低5日間の有給を取得させる義務が課せられることとなりました。

 あくまで付与される有給の日数が10日以上の労働者が対象です。そのため、例えば週4日勤務のパート労働者の場合は入社後6カ月で7日、その1年後に8日の有給しか付与されないので、このようなパート労働者は改正労基法に基づく有給の取得義務化の対象外となります。

 しかしながら、法律上は7日とか8日分の有給を与えればよいパート労働者に対しても、就業規則において10日の有給を与えている会社があります。このような場合も改正労基法における有給取得義務化の対象労働者に含まれるのでしょうか。

 この点について、現在のところ行政通達等で明確にされているわけではありません。しかし、労基法第39条第7項の文言を素直に読めば、法律の基準を超えて多く有給を付与された労働者は有給取得義務の対象外であると考えざるをえないと思います。

 

労基法第39条第7項

 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

 

 下線赤文字部分を読んでいただければわかるとおり、有給取得義務化の対象となる労働者の範囲は「付与される有給休暇の日数が10労働日以上である労働者」一般ではなく、あくまで「労基法第39条第1項から第3項までの規定により付与される有給の日数が10日以上である労働者」なのです。そして、週所定労働時間が30時間未満かつ週所定労働日数が4日以下の労働者で労基法第39条第3項の規定に基づき比例付与された有給日数が10日に満たない者は、有給取得義務化の対象外であると考えられます。

「解雇」という事実の認定の難しさ

 「会社から解雇されました」と言って相談に来る方が結構います。会社は労働者を解雇する場合、労基法上の手続きに従い30日以上の予告期間を置くか又は予告期間を短縮する場合は短縮する日数に応じた解雇予告手当の支払いが義務付けられます(労基法第20条)。また、労基法第19条や労働契約法第16条に基づく解雇制限があるため、会社は自由に労働者を解雇することができるわけではありません。

 しかしながら、「会社から『解雇』されました」という相談を文字通り鵜呑みにするわけにもいかないのが実情なのです。というのも、相談者からよくよく事情を聞いてみると、会社は「あなたを解雇する」などという発言をしたわけではなく、「もう会社に来なくて良い」「会社を辞めろ」と言われたに過ぎないケースも多々あるからです。

 「解雇」という事実の有無を証明する最も強力な証拠となるのが解雇通知書等の書面です。会社から解雇通知書を交付され、何月何日付で解雇する旨の記載があれば、ほぼ間違いなくその労働者は会社から解雇されたと判断できます。しかしながら、解雇通知書等の書面を交付されておらず、社長から「もう会社に来なくていい」「会社を辞めろ」と言われているにすぎない場合、このような社長の発言は

  1. 解雇の意思表示
  2. 休業命令
  3. 退職勧奨

のいずれであるかが不明確なのです。社長が①解雇の意思表示と素直に認めれば、当該発言は解雇の意思表示と考えて差し支えないです。しかしながら、労基法や労働契約法をある程度知っている社長であれば、労働者を解雇した場合に法律上の規制がかかってくることを知っているため、解雇したという事実を認めようとしないケースが多いです。大抵のケースでは、「『解雇』などと一言も言ってない。単に退職を促しただけだ」と言い逃れされるのが落ちです。

 「解雇」、「休業命令」、「退職勧奨」のいずれであるかが不明確な場合、労働基準監督署へ相談に行ってもあまり意味はありません。なぜなら、労働基準監督署は客観的な事実を基に労基法違反の存否を判断しますので、解雇通知書も交付されておらず社長自身も解雇の事実を否定している場合は「解雇の事実について特定できず、法違反は確認できなかった」として処理を終えざるを得ないからです。

 では、「もう会社に来なくていい」「会社を辞めろ」と言われた場合、労働者はどのような対応を取ればよいのかというと、とにかく出勤することなのです。

上記③退職勧奨はあくまで会社と労働者との間で合意退職を目指すものにすぎないので、会社から退職を勧奨されたとしても労働者はそれに応じる義務はありません。ですので、退職勧奨に応じず普段通り出勤しても何の問題もないのです。また、仮に会社が出勤を拒否した場合(上記②)、その出勤拒否が使用者の攻めに帰すべき事由によるものである限り、会社は労基法第26条に基づき平均賃金6割以上の休業手当を労働者に支払わなければなりません。会社が労働者に休業手当支払わなければ、賃金不払いとして労働基準監督署へ申告することができます。休業手当の不払いには当然罰則もあります(労基法第120条)。

会社は、労働者の出勤を拒否した場合であっても、労基法上は休業手当を支払い続けなければならないため、不要な出費を強いられることになるのです。そうなってくると、最終的に会社は当該労働者に対して解雇せざるを得ない状況に追い込まれることとなるのです。そして、実際に会社から明確に解雇の意思表示を引き出すことに成功して初めて、解雇予告や解雇制限の話に持っていくことができるようになります。

相談者に対して「今回のケースについて解雇と断言することができな。とりあえず会社に出勤して会社の意思を確認すること」と言うと、大抵の相談者は出勤するのを嫌がります。しかしながら、解雇されているわけでもないのに出勤しないとなると、会社からは欠勤扱いされるかあるいは「退職勧奨に応じて会社を自発的に辞めたのだ」という口実を会社に与えることになります。自身の権利を守りたいのであれば、自ら行動するということが不可欠なのです。

個別労働紛争解決制度

 個人的な感覚ですが、ここ最近は労働者の方からいじめ・嫌がらせに関する相談を多く受けるようになった気がします。

 相談の中には、「それって単なる業務上の注意なんじゃ・・・」としか思えないような当たり障りのないような内容の相談もあれば、職場の上司によるパワハラが原因で精神疾患を患ってしまい仕事ができなくなったというものもあります。

 いじめ・嫌がらせの程度がどうあれ、私の場合はひとまず個別労働紛争解決制度について相談者に説明することにしています。この制度は、解雇や雇止め、いじめ・嫌がらせやセクハラ等、事業主と労働者との間に労働紛争が生じた場合に利用できます。当該制度を利用すれば、都道府県労働局長による助言指導や労働問題の専門家で構成される紛争調整委員会による斡旋を受けることができます。

 この制度を利用するための窓口は全国の労働基準監督署に置かれており、総合労働相談員と呼ばれる方が斡旋等の申請内容を局へ報告する役割を担っています。管轄の労働基準監督署に勤務している総合労働相談員さんに対して、個別労働紛争解決制度を利用したい旨伝えれば、相談員さんが具体的な手続きについて教えてくれるでしょう。

 この制度を利用するための手数料は無料ですので、裁判を起こすだけの費用を負担できない労働者さんにとってありがたい制度と言えます。しかも、1事案ごとの処理期間も裁判に比べると比較的短くて済むようです。

 とはいえ、都道府県労働局長による助言指導はあくまで行政指導にすぎないため、事業主がそれに従うことを強制されるわけではありません。また、紛争調整委員会による斡旋にしても、あっせん開始の通知を受けた事業主が、あっせんの手続きに参加する意思がない旨を表明したときは、あっせんは実施せず、打ち切りになります。

 個別労働紛争解決制度は、あくまで事業主と労働者との民事的な合意を形成して問題解決を図る制度であるため、裁判みたいな強制力まで持っていないのが弱点と言えます。しかしながら、当該制度を利用することにより解決に至った事案も少なからずあるので、利用してみるのも十分ありかと思います。

 

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通勤手当の支払いについて

Q.私の勤めている会社では通勤手当が支給されません。私の友人が務めている別の会社では通勤手当が支給されているのに、おかしくないでしょうか。会社が労働者に対して通勤手当を支払わないことは労基法に違反しないのですか。

 

A.会社が労働者に対して通勤手当を支給しないことが必ずしも労基法違反となるわけではありません。別段の意思表示が限り、会社が労働者に対して通勤手当を支給する義務はないでしょう。

 

1.通勤手当の法律上の位置づけ

 会社と労働者との間で雇用契約が結ばれると、労働者は会社へ労務を提供し、会社はその見返りとして賃金を支払わなければなりません。労働者が労務を提供する場所は、別段の意思表示がない限り、会社の現在の住所となります(民法485条)。

 会社へ行って実際に労務を提供するためには、自分の足や自転車、車、その他公共交通機関を使う必要がります。民法上、自宅から会社へ行くまでの費用(通勤費用)については、原則として労務提供債務を負っている労働者が負担することになります(民法485条)。したがって、会社は必ず労働者に対して通勤手当を支払わなければならないというわけではありません。

 

2.会社が通勤手当の支払いを義務付けられる場合

 もっとも、会社が通勤手当を労働者に対して必ず支払う必要のあるケースもあります。

確かに、通勤費用は労働者本人が負担するのが原則です。しかし、通勤費用については会社が負担する旨の「別段の意思表示」があった場合、会社は労働者に対して通勤にかかった費用として通勤手当を支払わなければなりません。

 「別段の意思表示」の方法としては、就業規則雇用契約書、あるいは労働協約において会社が労働者に対して通勤手当を支払う旨明記されていることなどが考えられます。

 そして、就業規則等において通勤手当の支給条件が明確にされることによって、会社は労働者に対して通勤手当を支払う義務を負う一方で労働者も会社に対して通勤手当を請求する権利を持つことになります。

その結果、その通勤手当は労働の対償として認められ、労働基準法上の賃金として保護されます。労働基準法第24条第1項は、使用者が労働者に対して賃金の全額を支払うよう義務付けています(賃金全額払い原則)ので、仮に会社が就業規則等に明記された通勤手当を労働者に支払わなかった場合は労基法24条違反が成立するのです。

週所定労働日数が定まっていない場合の有給付与日数

週所定労働日数が定まっていない場合の有給付与について

 

パートアルバイト労働者であっても、週所定労働日数が5日以上であるか又は週所定労働時間数が30時間以上である労働者については、6か月継続勤務かつ出勤率8割以上という法定の要件を満たしていれば「正社員/パートアルバイト」の区別に関係なく10日間の年次有給休暇を与えなければなりません。

 他方で、週所定労働日数が4日以内であり、さらに週所定労働時間数が30時間未満の労働者については、以下の表に従って有給休暇を与えなければなりません。

 

週所定 労働 日数

1年間の 所定 労働日数

雇入れの日から起算した継続勤務期間

6箇月

1年 6箇月

2年 6箇月

3年 6箇月

4年 6箇月

5年 6箇月

6年6箇月以上

4日

169~216日

 7日

 8日

 9日

10日

12日

13日

15日

3日

121~168日

 5日

 6日

 6日

 8日

 9日

10日

11日

2日

73~120日

 3日

 4日

 4日

 5日

 6日

 6日

 7日

1日

48~72日

 1日

 2日

 2日

 2日

 3日

 3日

 3日

 

 ところで、パートアルバイト労働者の中には、1週間のうち2日しか出勤しない週もあれば4日出勤する週もあるというように、変則的な勤務をしてらっしゃる方もいます。このように1週間の所定労働日数が明確に定まっていない労働者については、上記表「1年間の所定労働日数」に基づいて付与すべき有給休暇の日数を判断することとなります。

 しかしながら、入社してから6か月経過後最初に付与する有給休暇の日数を判断する際に、どのようにして「1年間の所定労働日数」を求めればよいのでしょうか。パートアルバイト労働者の所定労働日を予め年間カレンダーで定めている場合には、そのカレンダーに従って1年間の所定労働日数を判断すればいいでしょう。しかし、大抵のパートアルバイト労働者について1年間の所定労働日数を予め定めているケースというのは少ないように思われます。

 この点について、行政通達では、「予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えないこと」とされており、「雇入れの日から起算して6か月経過後に付与される年次有給休暇の日数について、過去6か月の労働日数の実績を2倍したものを『1年間の所定労働日数』とみなして判断することで差し支えない」とされています(平16・8・27 基発第0827001号)。

 ですので、過去6か月間の勤務日数を単純に2倍した日数を上記表にあてはめれば、その労働者に与えるべき年次有給休暇の日数が導き出せるわけです。

 

参考

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労働者が副業した場合の割増賃金支払い義務者は?

 今後ますます増えてゆくであろう副業ですが、労働者の長時間労働を抑制するために労働基準法上特別の規制がかかっている点には注意が必要です。今回は、副業と労働基準法に基づく労働時間規制の考え方について解説していきます。

 

1.副業・兼業した場合の労働時間管理

労基法第38条第1項

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関するする規定の適用については、通算する。」

 

 労働基準法第38条第1項は、労働者が本業での労働に加えて副業先でも労働に従事した場合、その労働時間を通算しなければならない旨定めています。

ですので、例えばある労働者が同一日においてA社において8時間労働した後にB社で3時間の労働をした場合、法定労働時間8時間を超える3時間が時間外労働時間となります。そして当然ながら、この時間外労働3時間については時間外割増賃金の支払いが必要となります。

 

2.副業により発生した時間外割増賃金の支払い義務者

 それでは、A社とB社のどちらが、労働者に対して割増賃金を支払わなければならないのでしょうか。

この点について、法定労働時間8時間を超えて実際に労働に従事させた会社が労働者に対して時間外割増賃金を支払わなければならないと誤解してらっしゃる方がいます。例えば、労働者が先にB社で3時間勤務した後さらにA社で8時間働かせた場合、法定労働時間8時間を超えて労働に従事させたA社が労働者に対する割増賃金の支払いをしなければならないというのです。

 しかし、実は副業によって発生した時間外労働に対する割増賃金の支払い義務を負うのは、原則として「労働者と時間的に後で労働契約を締結した事業主と解すべき」であると考えられています(厚生労働省労働基準局編『平成22年版 労働基準法・上』労働法コンメンタール③[労務行政]530頁)。この考え方によれば、時間外割増賃金の支払い義務者は必ずしも法定労働時間を超えて実際に労働に従事させた会社というわけではなく、どちらの会社が「時間的に後」で労働者と労働契約を締結していたかにより決まることとなります。したがって、仮に労働者が先にA社との間で所定労働時間8時間の労働契約を締結した後、B社と所定労働時間3時間の労働契約を締結した場合、B社が時間外労働時間3時間分の割増賃金の支払い義務を負うことになります。時間的に後で労働契約を締結した会社は、契約締結に当たってその労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで契約を締結すべきであるため、このような取り扱いが妥当であると考えられているのです。

 

3.例外ケース

 もっとも、常に時間的に後に労働契約を締結した使用者が時間外割増賃金を支払わなければならないというわけではありません。先に労働契約を締結していた会社の方が労働者に対して割増賃金を支払わなければならないケースもあります。

 例えば、A社で4時間、B社で4時間働いている労働者がいたとします。A社が、この労働者は後にB社で4時間勤務することを知っているにもかかわらず、労働時間を延長した場合、A社が労働者に対して割増賃金を支払う義務があると考えられます(厚生労働省労働基準局編『平成22年版 労働基準法・上』労働法コンメンタール③[労務行政]530頁)。このような場合にまで時間的に後に労働契約を締結した会社に割増賃金の支払い義務を課すのは公平とは言い難いため、妥当な見解でしょう。

 

4.36協定の届け出について

 労働者に時間外労働をさせる場合は、原則として36協定を所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります(労基法第36条)。

 労働者が副業をすることによって時間外労働が発生する場合、原則として労働契約を後で締結した使用者が時間外割増賃金を支払う義務があることは先述しました。しかし他方で、時間的に先に労働契約を締結した使用者であっても、場合によっては時間外割増賃金を支払わなければならないケースも出てくるわけです。そのため、どちらの会社も36協定を労働者代表との間で締結して労働基準監督署へ届け出た方が無難であろうと思われます。

ブログ開設の目的

 ブログを開設した目的についてお話いたします。

 私は、事業主さんや労働者の方から日々労働問題に関する相談を受ける仕事をしています。相談を受ける中で、相談者の方々が法律や対処法について意外と理解できていないんだなぁ、と思うようになりました。

 もちろん、労使紛争というのは意思を持った人間同士の争いごとであるため、決まりきった解決法があるわけではありません。また、昨今の政府による労働規制は複雑であることから、日々仕事をされている事業主さんや労働者さんが労働関連諸法律をじっくりと学ぶ時間が取れるはずがないと思います。

 このブログでは、主に労使間の争いごとに頭を悩ませる事業主さんや労働者の方に向けた法律上のアドバイスを示す記事をアップしていきたいと考えています。

 また、私の趣味が読書ということもあって、読んだ本の書評も行っていくつもりでもあります。